ヌサマハスリのバドミントン
ラケットショップハマナカ新居浜店
浜中彰
2006年1月17日
 これまでこのウェブサイトで写真掲載・修行の旅レポートなど表面的な情報ばかり掲載してきた。今回このページでは、マレーシアの国民的英雄でありマレーシアバドミントンの牽引役を担っているミスボン=シデクのバドミントンに対する考え方を包み隠さず発表してみようと思う。日本のバドミントン指導者に大きな影響を与えるに違いない。この考え方を練習で使用する場合は、ヌサマハスリのバドミントンであるということを付け加えていただきたい。なぜならば、ミスボン=シデクが長年のプレイヤーとしての経験、指導者としての経験から得られた考え方の結論であり、その功績に対して敬意を払うためである。

1、「ヌサマハスリ」と命名した訳。
 サリム=サメオンの2004年・2005年愛媛滞在中、『Nusa Mahsuri』と命名された理由を尋ねてみた。彼は、NusaとはNational United Sidek Associationの略だと言った。創始者ミスボン本人にはまだ聞いていないが、ミスボンの考え方などと照らし合わせてみると、このチーム名にはミスボンの思い入れがあるように思える。
 Nusaはマレー語で祖国、Mahsuriはランカウィの伝説の姫の名前である。プロチーム名としては変な単語を並べたものだ。しかし、考えても見よう。バドミントンはマレーシアの国技のようなスポーツだ。国の威信をかけて戦わなければならない。祖国のために負けるわけにはいかないのだ。メンバーに、マレーシアのためという自覚を植え付ける意味でも『Nusa』という語は五臓六腑に響いてくる語なのだ。また、日々の練習はスブフ(日の出前)の礼拝から始まる。ラマダーン中は毎晩のように全員が集まりクルアーン(コーラン、聖典)を読み、共に礼拝を行っている。もちろん昼間は断食をしながら練習をし精神力を鍛えている。彼らの練習にはイスラムの行の実践も含まれている。ヌサとは祖国とイスラムのためにとの意味が含まれているに違いない。
 Mahsuriとは、200年前のランカウィ島の実在の姫であった。無実の罪を着せられ殺されたが、その潔白を示すかのように白い血が吹き出して死んだと伝えられている。その後ランカウィ島の守り神として人々から崇められ、以後ランカウィは外敵に侵されていない。この名を選んだのは、マレーシアの守り神のような存在でありたいとのミスボンの決意が見られると言えないだろうか。

2、シャドウの考え方
 シャドウとは日本ではフットワークのことである。日本では、指示をして5分間おこなうなど、苦しい練習のひとつである。ミスボンは日本人のプレーを見て、上述のような練習をしているだろうと言い当て、苦しく長い時間のフットワークの練習するくらいなら、屋外をランニングした方がましだと批難した。
 ヌサマハスリでは、すべての練習は実戦に直結するものでなくてはならないと考えている。ノックにしてもパターン練習にしても、実戦で使われる一部分を取って練習に生かしている。フットワークも同じなのである。実戦で5分間の持久走のようなフットワークは考えられないのである。だから、こういう練習はコートを使ったスタミナ練習ではないかとミスボンは断言し、それならば野外をランニングするのも変わらないと言っているのである。実戦で使うフットワーク、それも世界レベルのフットワークとは、10スイング程度を全速力で行うものである。また、スイングする場所を必ずコートの4角でなくてはならないとするのではなく、やはり実際にシャトルが飛んで来そうなポイントとしたいものだ。
 また、シャドウとは英語で影の意味である。実際にシャトルは飛んでこないが、飛んでいるかのように動かなければならない。とかく部活の練習などでは、回数や時間ばかりこなし、シャトルを意識して動いていないことも多い。実戦で使えるシャドウにするには、シャトルを意識して動くことが大前提なのである。その点も留意点である。
 では、ヌサマハスリではどのようにシャドウの練習をしているのだろう。さまざまなやり方があるが、毎朝やっているのは、6点を10スイングを1セットとして、セットとセットの間は、呼吸を整え、10セットおこなう。4点レシーブポイントを10スイングで1セットとし、10セット。2点サイドジャンプスマッシュを10スイングを1セットなどである。セットとセットの間で呼吸を整えるというのは、ちょうど実戦でラリーが終わって次のサービスに構えるまでのインターバルと同じでなくてはならないと考えているのである。
ラケットショップハマナカ前でシャドウを行うサリム=サメオン(手前)と浜中裕太(向こう側)
 今述べたのは通常のシャドウであるが、それ以外にもいくつかのシャドウ練習を行っている。例を挙げると下の二つの写真である。
新居浜市民体育館で球投げシャドウの練習を指揮するサリム=サメオン。スマッシュクラブで。ただ、指導者が投げ出すタイミングが大切である。ホームポジションで両足が着地した瞬間に球出ししなければ練習の意味がない。 フェイントにかかったとしてのシャドウ。指示するミスボンの体の形に合わせてホームポジションで構え、投げられた方向にスタートする。ロスリン=ハシム。
 どのシャドウ練習でも実戦を意識して行っている。ミスボンは、大会で選手が対応できなかったコースがあればそれをメモし、シャドウ練習、パターン練習時に生かしている。

3、ランニングの考え方
 ランニングはスポーツの基本であり、怠ることはできない。
 今のヌサマハスリでは、朝、昼、晩の3回合計1時間のランニングを自主的に行うように義務付けている。つまり、朝20分、昼20分、夜20分であり、時間の都合で朝10分しか出来なければ、足りなかった分を昼か夜に加えて行えばよい。このランニング方法は通常のジョギングであって、インターバル走ではない。ただ、走り方が少し違う。腰の上下動を極力抑え、肩の前後の動きを抑え、小股でピッチ走法で走っている。なぜかというと、コート上で動くことを念頭に置いて走っているからである。下の写真のロスリン=ハシムと日本人中学生の走り方の違いを比べてみよう。
 上述のランニング以外に、ヌサマハスリでは練習が終わった後に必ずダッシュを行っている。一般的に練習の終わる頃には選手は、スタミナを使い果たしへばっている状態にある。その状態にこそ、全速力のダッシュ練習を行う効果があるというのである。ゲームにおいてファイナルとなり、くたびれた状態でいいプレイができるかどうかで勝負の明暗が分かれる。ファイナルゲーム10オールのつもりでダッシュをしたいものだ。さらに、来年度から21点ラリーポイントゲームがはじまれば、さらに苦しいときのスプリント力が要求される。
 ヌサマハスリでは、約13メートル(2コート分の幅)を6往復をひとつのセットとして、12セット行うようにしている。

3、ノックの考え方
 部活の練習の中でノックをする機会は多いはずだ。
 能力に差がある選手たちにノックするとき、ノッカーは一般的にどうしているだろうか。よく見る例が、一番実力のある選手に合わせたテンポで、きっちりコーナーを狙っておこなうことが多いだろう。そうした場合に、一番実力のある選手は目一杯動いてシャトルをすべて打つことができるが、それ以外の選手はノータッチをしてしまう。すると、指導者は、「取れないのは動きが遅いからで、取れるように練習を積め、これが取れて初めて県で上位に行けるのだ。」などと注意をする。実は、全部打てた選手はいいが、ノータッチをした選手は練習になっていないのである。
 また、逆にレベルの低い選手に合わせてノックをすると、それより上手な選手は楽々シャトルが取れ、練習効果はほとんどない。
 ノッカーが同じテンポで、きっちりコーナーにシャトルを送ることができることは、そのノッカーの技術は高いといえるが、これでは単に機械であって、いい指導者とは言えない。
 ヌサマハスリでは、ノックとは選手がノータッチをせずに打たせ続けれることが重要だと考える。上手な選手には、それに合わせたテンポと距離、下手な選手にもやはり選手に合わせたテンポと距離で行うべきである。そして、打たせながら徐々にテンポを上げていったり、距離を10センチずつ増やしていけばいい。肝心なことは、選手すべてが自分の持つ力の80パーセント以上の力で動くことだ。
 ノックには、ラケットを使わず、手で投げるノックもある。『手投げノック』と呼ぼう。手投げノックは、狙った地点に正確にシャトルを送れてる点で、いいノック方法である。ただし、心がけなければならないのは、いかに実戦と同じフライトで投げられるかどうかである。そのためには投げ方の工夫をしなければならない。
 ノックでもうひとつ忘れてはなかないことは、指導者は常に「もっと、速く」「これを決めろ」というように選手たちに声をかけて、選手たちのやる気を引き出さなくてはならない。
普通のノック。選手がノータッチしないような送球を。ロスリン=ハシム。 手投げノック。選手に80パーセント以上の力を出させる。サリム=サメオン。於:新居浜北中。


4、パターン練習の考え方
 パターン練習とは、予めシャトルを送るコースを決めて、1個のシャトルを使って、ラリー形式で行う練習方法である。大きく分けて、選手と選手がネットをはさみ双方ともに練習になるものと、指導者が選手を動かす練習と2種類ある。ここでは指導者が選手を動かすパターン練習の考え方を書いてみよう。
図はミスボンとクンカ(エストニア)の二人が、選手にパターン練習を行っている。
 1、基本的にはノック練習同様、選手にノータッチをさせず、実力の80パーセント以上で動いてちょうどとれる箇所にシャトルを送るように心がけなければならない。ホームポジションで選手がゆとりを持ちシャトルを待って動くようでは練習効果は少なくい。ゆとりの無い状態に追い込み、次々と早いテンポでシャトルを送るべきである。
 2、パターン練習にスマッシュが入る場合は、できるだけ高いジャンプと、速いスマッシュを打たせなければならない。やはり、選手の持つ力の80パーセント以上で打たせるべきである。
 3、実戦では常にいい打点でシャトルを取れるとは限らない。例えばオーバーヘッドストロークの場合、パターン練習の設定を、ちゃんと頭上で取ることをテーマとすることはあまりよくない。フェイントをかけられ体を抜けて飛んでくるアタッキングロブ、早いテンポで飛んでくるクリアーに対して、スタートが遅れた状況でリターンをすることをテーマとする方がよりよいのである。そのためには、一部分フリーも入れることも必要である。

 多くの指導者がバドミントンの勝ち方として言うのに、より高く、より前で、より速いシャトルが打てれば勝てるという。確かに的を得たアドバイスであるが、より高く、より前で打てるならば、そのような相手とゲームをする必要はないのではなかろうか。体を抜けていくシャトルをどう取るか、速く手が届きそうもないスマッシュをどうリターンするか、厳しいチョップショット(カッティングショット)をどうリターンするかであり、ただリターンするだけではなく、自分でコントロールし、相手にゆとりを持たせないように反撃する能力を身に付けなければならない。そのためのパターン練習なのである。
 普通の選手は、十分に高く前で取れるときは攻撃的ショットを打ち、そうでないときは確実に繋ごうとする。これは確かに正しいし、指導者もそう教えている。しかし、ヌサマハスリの選手は、高く前でとれないときでも、相手に余裕を与えないように速いテンポで返球し、反撃を心がけている。ときには、シャトルの位置まで下がってなく、不十分な体勢でも四角どこにでも送球する。日々のパターン練習の重要なところはこうしたショットを打てるように訓練しているのもひとつである。

 ふと思い当たることがあった。ミスボン著『バドミントンの基本技術』のクリアーの打ち方で、フォア側の後ろで打つ場合は、打点は顔の前方、バック側の後ろで打つ場合は、頭上と説明していたのを思い出す。日本ではフォア側でもバック側でも頭上前方で打つようにと教えるのが一般的であるはずだ。このあたりにもミスボンの実戦主義が現れているのである。

5、2−1練習、3−1練習の考え方
 2対1、3対1でゲームをすることは、よくある練習方法である。一般的に日本では、2の側が1を動かして、1はとにかく繋いでいく練習をやっていることが多い。または、言い換えれば2対1でゲームをしている。
 ヌサマハスリでの2−1練習は少し違う。2側は、1側にまったくチャンスを与えず、できる限りの厳しい攻撃を行い、短時間でゲームを終えるようにしなければならない。それに対して、1側も相手の攻めに対してハイクリアーや高いロブなどで逃げるのではなく、カウンター攻撃をしかけたり、また、積極的に自分から攻めていくものである。つまり双方ともが、速いテンポで攻めていき、できる限り短時間で相手に勝とうとしなくてはならないのである。
 この練習を通して何が得れるかというと、すばやい動きと積極的な球送りを身につけることにより、シングルスのゲームを行うときには、テンポの速い球送りで相手にゆとりを持たせずラリーを続けることである。それにより、ゆとりを持てなくなった相手は、球送りが単調になり、ミスも出やすくなるのである。

6、グリップの握り方
 グリップの握り方は、指導者によって考え方は違うかもしれない。握り換えないほうがよいか、握り換えるべきか、また、握る強さも、軽く握るかしっかり握るかも違ってくる。
 ヌサマハスリでは、もっとも効果的なショットを打てる握りをすべきであると言っている。つまり、打つショットごとに握り方を換え、握りの強さも変えるべきだとしている。ここで言う『効果的』とは意味が深いことを知っておいていただきたい。
 例を示してみよう。
 バック前で、ネットに繋ぐかロブを上げるかという状況の場合の握り方として、力一杯長めに握り込み、親指の腹をグリップに強く押し付けるように構える。そうすれば、その握りから、わずか10センチの振り幅で勢いあるアタッキングロブを出すことが可能になるし、また、シャトルにミートする瞬間握る力を緩めれば効果的なヘヤピンとなる。(図1)
 バック後ろでハイバックストロークを打つ場合、狙うコースは主にストレートのドリブンクリアー、カットスマッシュ、チョップショット、またはクロスのスマッシュ、ドロップであろう。その際、もっとも鋭いショットを打つためには、、親指の腹を図1のようにグリップに押し付けるのではなく、強く握って、親指の腹はグリップ上部に置くことにより、リストが利きやすくなり、さらに親指の腹で面の操作することにより、より多彩なショットが打てるようになる(図2)。
 実際にリストの利きを試していただきたい。ハイバックを打つ場合に、親指を当てた場合はリストは180度くらいしか利かないが、図2のように親指をはずして打つとリストは270度利く。
図1 図2
 これは単に一例であるが、要は相手にとってより怖いショットを打つための握り方でありたい。
 ただ、ここで誤解をしてはいけないのは、ハイバックは必ずこのように握らなければならないという意味ではない。より怖いショットを打つための握りなのであって、安全に繋ぐ場合は親指の腹をつけて、素直にハイクリアーを打ち出すこともあるということは付け加えておこう。

 握りに強さについて補足説明しておこう。日本では一般的にどんなショットを打つ場合でも、軽く握って構えるほうが、リストが利きやすく、スイングしやすいと言われている。そしてミートの瞬間に握り込みをしたりする。要は、すべてのショットがスイングとなり、やわらかいリストの使い方で効率の良い打ち出しをすることが理想とされている。
 ところがヌサでは全体的に強い握り込みで構えることが多い。そして打つショットごとに握りの強さが違う。力一杯握ったままの強→強→強で打つアタッキングロブもあれば、強→弱→強で打つハイバックなど、打つショットごとに違うがほとんどのショットは強から始まることが多い。言い換えれば、構えでは強く握っていることが多い。

7、武器 ・・・・2006年11月10日
 世界で活躍できる(シングルス)選手となるには『武器』が必要だ。『武器』がない選手は一流にはなれない。・・・ミスボンはそのように考えている。
 武器とは、一本で相手からノータッチが取れるショット、あるいは相手にとっては怖いショットである。ミスボンは口癖のように「dangerous shot」マレーシア語で『Senjata』(以後『武器』と言う)と連発するのがまさにこの武器となるべきショットのことである。日本の選手の中では、佐藤翔治の切れの良いスマッシュ、広瀬栄理子のカットあたりであろう。まだ広瀬が頭角を現す前ミスボンが広瀬を見て彼女は日本のチャンピオンになるだろうと言ったのだが、そのはこの武器となるカットを注目してのことだった。
 2004年ジャパンオープンでサリムが予選1回戦タイのティラユ選手と当たった。手首の腫れていたサリムはできるところまでやって、だめなら途中棄権するということで登場したが、第1ゲーム目4−4で棄権となった。その時「ティラユ選手には怖い武器はなかった。動きは自分の方が速いし、負ける要素はなかった。」と、悔し涙を流しながらサリムが言ったのだった。やはり武器を意識しているのである。
 武器となるショットは、各個人で違ってくる。そういった武器を自分なりに開発しラリーで使わなくてはならない。私が見た感じで、ミスボンの武器は、Misbun Special Chopと、フォアから相手のバックを狙う角度のあるリバース気味のスマッシュであろう。
 高校生といえば円熟期である。目先の結果を重視するあまり、スタミナと精神力の強化のみ重点的に行い、この武器の開発を怠りがちになっているではなかろうか。確かにこの時期は筋力がアップするので、みるみるショットに威力が付いてくる。パワー、スタミナ、精神力と鍛えれば、確かに結果はでるだろう。しかし、もう一つ上のレベルに目標を置いた場合には、武器に磨きを掛けることも忘れてはならないと思う。

 武器として代表的であり、マスターしておきたいものがいくつかあるが、このスペースで言葉で説明するのは伝わらないと思われるので割愛し、ミスボンが説明する指導DVDを参照していただきたい。すでに、2006年愛媛や愛知で開催されたヌサマハスリ講習会ではそれらを紹介しているし、マレーシアのヌサマハスリクラブでの練習において幾度もミスボンがこと細かく説明している。松山店、新居浜店常備のDVDに収録されている。希望が多いので近々DVDをコピーしてネット上でお分けすることになるだろう。(『ヌサマハスリの練習DVD2006年版』

8、基本とは何か・・・2006年11月30日
 浜中裕太が中学生1年生の時、ミスボンの長男シャワル(当時小学6年生)とゲームをした。 試合内容は、軽快なフットワークで全面をカバーし、動きの悪い相手の左右のサイドライン上を狙いスマッシュで決めていく得点パターンの裕太に対して、シャワルはネット前から相手のフォア奥へアタッキングロブで球を送りミスを誘うという得点パターンが多かった。結果は13−15でシャワルの勝ちであった。その時のミスボンのアドバイスは、「裕太は典型的な日本人のプレーをする。ただし基本がまだしっかりしていないのが敗因である」と言った。さらに「実はそのままゲームをさせると裕太が勝っただろう。ショットは鋭いし動きはいい。それで、シャワルにはアタッキングロブで裕太のフォア奥を狙い突破口をみつけるようにと指示しておいた。」と語った。
裕太とシャワル、ゲームの後でスナップ
 ではここで、ミスボンのいう基本とは何か考えてみよう。 
 実は、これが最も重要なことであり、この考え方の違いから、典型的な日本のバドミントンと、ミスボンの言うバドミントンと第一歩から違う方向に踏み出してしまうことになるのである。
 この基本こそがもっとも重要でありこれが理解できれば、ミスボンの言うバドミントンのすべてが理解できことになるだろう。それで私なりに3つの重要な基本を書いてみよう。
A、スイングはコンパクトでなければならない。

 これはよく日本でも言うことであるが、その内容が少し違っている。多くの日本人選手はこれができてないので、すべてのショットコースがばれてしまっている。
 どういう打ち方がコンパクトな打ち方なのか言葉で説明をするのは難しく、実際に見せながらそのポイントを説明しなければ正しく伝わらないと思う。『ヌサマハスリの練習DVD2007年版のbP』にコンパクトな振り方について高校生をモデルにコツがわかりマスターしていく様子が見れるので参考にしていただきたい。

 ここでフォアでのロブの打ち方を例に取り言葉での説明を試みてみよう。大きく腕を旋回して打つのはだめで、手首だけを使い回内で手首を返して打つことがコンパクトな打ち方だと日本で教えていることが多いが、それではまだコンパクトとは言えない。ラケットが手首を中心に180度回内すれば、相手にコースがばれるのである。ここで求められるコンパクトとは、上腕の筋肉を打つ前に伸展させ、瞬間的に収縮させて打撃する打ち方で回内動作ではあるが回転角度が狭い。さらに、それだけでは強い打撃はできないので、補助として腕の前方移動が必要となってくるのである。正しくできているかどうかをチェックするのは壁打ちをしてみるとよい。1分間に100回以上できなければそれは大きな回内動作が入っていると言え、コンパクトにはなっていない。理想的なコンパクトな打ち方ができれば1分間に100回以上のシャトルが打てる。実際の例では、ハフィズ・ハシムは千回の壁打ちを8分30秒で、ロスリンが8分40秒でしている。
 それと同様に、バック側のロブ、フォアのオーバーヘッド、ハイバックとそれなりのコンパクトな打ち方がある。基本的には一緒であるが、詳細説明はここでは割愛させていただこう。

B、オーバーヘッドストロークの基本はジャンプして打たない。・・・2007年11月19日

 バドミントンの講習会でミスボンが「スマッシュには3つの打ち方がある」その三つとは何だろうか?そこで普通の人は−−−ミスボンが質問するくらいだから、まっすぐ走るスマッシュ、手元で浮き上がるスマッシュ、沈むスマッシュの3つだろう−−−と考えるのではなかろうか。私もそんなものかなあと思っていた。ところが、ミスボンがまじめに説明をはじめたのが、「1、動かず、ジャンプもせず腕だけで打つスタンディングスマッシュ、2、動いて打つランニングスマッシュ、3、ジャンプスマッシュです。」であった。なんと子供のような答えであった。しかし、それは大きな意味があった。彼の頭の中には、スマッシュとは元来、スタンディングスマッシュで、そのスタンディングスマッシュができてからはじめて次のレベルのランニングスマッシュ、ジャンプスマッシュがあるのだ。勿論、ジャンピングスマッシュが最も破壊力がある。実際、大会2,3日前の練習にリー=チョンウェイやハフィズのような世界トップクラスの選手でもスタンディングスマッシュの練習を入念に行っている。これが基本なのだ。(『ヌサマハスリDVD2007年版付録リー=チョンウェイの練習』参照)
 日本の基本では、スマッシュとはジャンプして体の前方で打つのが当然と思われている。さらに体の入れ替えまで行う。
 ゲームの中では、ヌサの選手も日本選手も全く同じようなスマッシュを打っているが、基本がスタンディングスマッシュにあるヌサの選手と、基本がランニングジャンプスマッシュにある日本選手とでは、違いが出てくる。何が違うかというと、ヌサの選手のスマッシュの前提は、確実にピンポイントでコースを狙うことが基本だと考えているのである。そして、ゆとりがあって初めてジャンプスマッシュが打てるのであるから、ジャンプスマッシュしたからといってコントロールが悪くなるわけではないのである。
 スマッシュを例にとって説明したが、クリアーやドロップショットなどあらゆるオーバーヘッドストロークは、ジャンプして打たないのが基本なのである。ジャパンオープンでヌサ系の選手(ミスボンの指導を受けている選手)が、試合前に基礎を打っている印象を思い浮かべていただきたい。たとえばリー=チョンウェイ、ハフィズ、ロスリンなど。みんな、ジャンプをせずに手だけで打っている印象があるのではなかろうか?それに比べて日本選手の試合前のアップは斜め前にジャンプして打っている印象があるのではなかろうか?そのあたりにも基本に対する考え方の違いが出ているのかもしれない。
C、フォアのクリアーは横で打つ

 ミスボン著の『Badminton....Teknik Asas (バドミントン−基本技術)』の中に、クリアーの基本として、「フォア側に球が飛んできたら、顔の前で、バック側に球が飛んできたら頭上で打つ。」と書いていた。これは直訳である。『顔の前』『頭上』???何なんだろうこの表現は?
 日本では普通、フォア後方にシャトルが飛んできたら、早く落下点の位置に下がり斜め前に打点を取って打つ、バック後方に飛んできても同様に斜め前に打点を取つと指導するだろう。
 『顔の前』ってどこだろう。この直訳は正確ではない。ミスボンが言っているのは、フォア後方にシャトルが飛んできたら体を横に向け、顔面の斜め上でヒットするのである。言い換えれば体の横の上の方で打つということである。
 バック側で打つときの『頭上』というのも日本の前方斜め前とは違い少し食い込まれた位置でのヒットということを言っている。ヌサマハスリ練習DVDのどれをみても確かに彼らは、フォア側のクリアーは体の横で打っており、バック側はすこしくい込まれた頭上で打っている。
 この日本の打ち方とヌサの打ち方の違いは何を意味するのか?大きな違いは、ヌサ方式だとあまり動かずに打つことができるということになる。下図を参照していただきたい。
ヌサ式 一般
 図はフォアハンドを例に示してみた。明らかにヌサ式はあまり動いていない。バック側は、フォアほどの差はないがそれでも約30センチほど動く距離は短くなる。
 ただ、ゲームの時、早いテンポでのドリブンクリアーの応酬となれば、だれでも図のようなヌサ式で打たなければならない。実はレベルが上がれば誰でもヌサ式の打ち方で打っているのである。また、逆に、高く甘いクリアーが上がり十分な余裕があれば、ヌサの選手でも右図のようにシャトルの後ろに回りこんでジャンプスマッシュを打つのである。
 ここで、知っておかなければならないことは、基本を左図のようなものだと考え、この状態で常に安定した送球をしようとする選手(ヌサの選手)と、一方、基本は右図のようなものだと考え、余裕がない時に仕方なく左図のように打つ選手(一般の選手)とでは、クリアーの応酬をした時に、自ずと結果は変わってくる。また、右図を基本と考えると、いかなる時でもシャトルの後ろに回り込もうとして、長距離動きがちになる。それでは、テンポの早いラリー応酬にはついていけなくなるのである。
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